Fly Like an Eagle – Steve Miller Band

ALBUM

スティーブ・ミラー・バンドはアメリカのバンドで、これは1976年に発表された9作目のスタジオ・アルバムだ。

邦題は「鷲の爪」。

本作からのシングル・カット「ロックン・ミー」は全米1位の大ヒットとなり、次のシングル「フライ・ライク・アン・イーグル」も全米2位を記録するなど、ヒット曲収録アルバムなのだが、このアルバムのレコーディングセッションの中で収録されなかった残りの曲で構成された次作『ペガサスの祈り』(Book of Dreams 1977年)が彼らの作品の中で一番売れたアルバムらしい。日本でもこっちがそこそこ売れたと思う。アルバムジャケットも凝っている。ちなみに、原題にペガサスなんてないんだけど、このアルバムの「鷲の爪」も、爪なんて原題にないし、そのあたりはどうでも良いといえばどうでも良い事だが、どうでも良い事を連ねていくのがブログというものかもしれないし、このあたりのどうでも良い事が気になって仕方がない人はこのレビューも読まない気がするので、どうでも良い事含みで書いていくので気になる人は飛ばし読みしてください。


ペガサスの祈り

話を戻して「ペガサスの祈り」。
実際には表題の「鷲の爪」よりも、次作の「ペガサスの祈り」の方がレコーディング(ミキシング?)クオリティは高いと思う。が、アルバム全体が良いとはちょっと言えないと、個人的には思う。良いサウンドシステムで聴くならこっちの方がいいのかもしれないけど・・・実際のところ、現在チープなサウンドシステムしか持ってないし。殆どがイヤホンの日常、個人的にはあまり良い音にこだわる事はないので。

ヒットの後の高クオリティ戦略というか、レコードの作られ方には面白いものを感じる。(言い方は悪いが)本作に収録する曲を吟味した挙句、いくつかの残りカスで構成された次作の方が売れるというのは変な状況だ。まあ、関係ないけど、このあたりはポリスの2作目「白いレガッタ」発表後の3作目「ゼニヤッタ・モンダッタ」でも言える事だ。前作のヒットに便乗して急遽製作費アップして作られるアルバムにありがちな「高品質サウンド化」という法則。

まあそのあたりはどうでもいいのだが・・・「鷲の爪(Fly Like an Eagle)」である。

本作は、基本スタイルとして

  • スティーブ・ミラー:ギター、ボーカル、シンセサイザー
  • ロニー・ターナー:ベース
  • ゲイリー・マラバー:ドラマー

この3人によるトリオ編成のバンドとなっていて、次作のクレジットと比べてもかなりシンプルな構成となっている。もちろんゲストを交えたそれなりにゴージャス?な曲もあるのだが、音の構成がシンプルな、ギター、ベース、ドラムのみで録音された曲の方が、ゲストを交えたセッションよりも圧倒的に秀でているように聞こえるという、ロックの本質を考えさせられるような優れた出来のアルバムだと思う。

ただし、そのあたりの評価は万人共通のものではないかもしれない。人によっては「スカスカな音」「ブルース嫌い」なんて人もいるだろうし、もっと拘れば「白人ブルースは偽物」なんていう人もいるかもしれない。しかもこのアルバム全編(というかスティーブ・ミラーの暫くの間発表されるアルバム全般)素人臭いシンセサイザー遊びというか、趣味の宜しくない擬音が蔓延していて、そこのあたりも突っ込みどころだと思う。

このサイトでの評価も、あくまでも個人的嗜好であって、自分の「好き嫌い」がテキストの大半を占めているため、人によっては同意、共感出来かねる部分もあると思われることは前もってお断わりしておく。

では、以下は収録曲のあれこれ。

“Space Intro” – 1:14

この「スペース・イントロ」と、10曲目の「ブルー・オデッセイ」は、曲目としてカウントされるのは如何なものかと思う。申し訳ない言い方になるが、当時目新しい楽器であるシンセサイザーを入手したスティーブ・ミラーが色々な音が出るのが嬉しくて、つい曲のようなものを収録したくなってしまったとしか言いようがないというか・・・まあ「雰囲気作りは出来ている」程度のものである。厳しい言い方かもしれないが、このスティーブ・ミラーという人は、この後もずっとこの手のシンセサイザー遊びを続けていて、「いい加減にしろ!」と思ってしまうのだが、その殆どはセンスが・・・ない(と自分は思う・・・あくまでも個人的嗜好)。

その中ではまだ本作はマシなほうかもしれない。ひたすら「ラーシドレミファソラシドレミファソラシドレミー」を繰り返しているだけじゃねえか、というと身もふたもないが、良く言えば、神秘的な雰囲気を醸し出しているということで許される範囲かなと。

“Fly Like an Eagle” – 4:44

アルバムタイトル曲でもある”Fly Like an Eagle”。このアルバム中3つ目のシングルカット作品で、ビルボード2位のヒットである。スペースイントロの雰囲気に乗ってサビサビ感のギターフレーズで始まるミディアムテンポのちょっとファンキーな曲だ。キーボードはヨアヒム・ヤングという人らしい。ゲスト・ミュージシャンもバンド・メンバーも、正直どの程度名が通った人なのかはよく判らないが、ドラムもこれ以上ないと言っていいほどツボにはまってカッコいい。この曲中もスティーブ・ミラーによる悪ノリシンセサイザーがミックスされていて、なくてもいいのだがそれがどうでも良いくらいにバンドの演奏クオリティが高い。
先の”Space Intro”と合わせたビデオ・クリップがあったので紹介。スティーブ・ミラーの見た目にがっかりしないで現実のサウンドだけを聞こう。最初のホワイトノイズがアナログLPっぽいけど、お試しという事で我慢して欲しい。

“Wild Mountain Honey” (Steve McCarty) – 4:50

ちょっと神秘的なオリエンタル?エスニック?メロディーな本曲は、シングルカットされたかされなかったか定かではないが、歌詞の意味はよく判っていないが、同一フレーズを繰り返すのはブルース的というよりは、ちょっとした呪術的雰囲気も醸し出しているような気がする。親しみやすいメロディラインを持った曲だといえるだろう。ドラムではなくコンガのようなパーカッションと、またまた悪ノリシンセが全編を包み込んでいる。が、鬱陶しいというほどではなく、この曲に関してはいい味を出している。

“Serenade” (S. Miller, Chris McCarty) – 3:12

ギター、ベース、ドラムのみの秀悦作品の一つ。

ゲイリー・マラバーというドラマーは良く知らないが、本当に”ツボ”を心得ているといった感じで、全編無駄なくドラムトラックだけ聞いていても飽きがこないんじゃないかという気もする。スティーブ・ミラーの飾らないコード・カッティングも、ものすごくカッコいい。シンセはけなすが、ギターは上手いというよりは、個人的に好きな演奏スタイルだ。

“Dance, Dance, Dance” (S. Miller, Joseph Cooper, Brenda Cooper) – 2:19

ゲスト、ジョン・マクフィーのドブロ・ギターをフィーチャーしたカントリー調の曲。このアルバムの前作に「ジョーカー」という「トーキングブルース」みたいな、あるいは「もたもたラップ」みたいなヒット曲があるのだが、歌手としてのスティーブ・ミラーの声は独特で、嫌いではない。顔は誉めればデカプリオっぽいかもしれないが、冷静に捉えれば中年太りのオッサンだろう。でもちょと鼻の通りがよくなさそうな(良く言えば甘い)声は結構、好印象ではないだろうか。 この曲のサビ部分「ディアーンス、ディアーンス、ディアーンス、all night …」という言い回しも印象的だ。

“Mercury Blues” (K. C. Douglas) – 3:45

ギター、ベース、ドラムによるトリオ編成曲2つ目。

もろブルースなのにこのカッコよさはなんだろうか。アルバムジャケットもカッコいいのだが、この曲を弾いていそうな気がするくらいにこのギターがすごく良い。ギターソロなんていらないのである。しかし中盤以降に入ってくるサスティナブルギターは、自分もコピーするのだがあんなに音が伸びないのだ、どうやったらあんな風に音が鳴らせるんだろう、と思って早、40数年・・・未だに謎だったのだが、Youtubeでライブ映像を見つけた。良い時代になったなあと思いつつ、見た目のギャップはやはり拭えないし、ライブよりもスタジオバージョンの方がカッコいいので、見る人は注意して観てください。

“Take the Money and Run” – 2:52

トリオ3曲目。

これはアルバム最初のシングルで、全米11位とそれほどのヒットとはいえないが、タイトル「金もって逃げろ」は西部劇っぽくていいなあなんて思ってしまう。またこの曲もギターのガチャガチャ感がたまらなく良いし、ハンドクラップも良い感じだ。
ライブ映像だが、イントロのドラムはレコードそのもの。でも、後は結構グダグダなので、やっぱりレコードを聴いた方がいい、と思う。ちなみにこの動画で次の「ロックンミー」も入っているが、それも同様…

Steve Miller Band – Take The Money And Run/Rock'n Me – 9/26/1976 – Capitol Theatre (Official)

“Rock’n Me” – 3:08

トリオの4曲目にして、全米第1位の大ヒット曲。フレーズ盗作疑惑なんてのも結構あったりするのだが、ブルースなんて殆どそんなものだろう。大事なのは録音のクオリティだと思う。トリオ演奏なのでよく聞けばかなりスカスカな音なのだが、それの何が悪いのかというほど、プレイヤー三人の間合いが見事にカッチリと決まった良い演奏だ。ライブなんかだとこの印象が変わってきてしまうほど(というか、前の映像を見たらバレてしまうけど)、このテイクのコンディションが良いのだろう。

で、これも映像を見て印象を悪くしそうな方は目をつぶるか、別の場所をみながら聴くといいかもしれない。大体映像と音が合ってないので、見る価値は全くないと思うが・・・これがレコードと同じテイク。YouTubeにありがちな、音はあまり良くないので、気に入ったら高音質のストリーミングサービスか、自分で購入して聴いてみてください。

“You Send Me” (Sam Cooke) – 2:42

原曲はサム・クック。Wikiによれば、本作のヴァージョンにはチーチ&チョンのアルバム『Cheech & Chong’s Wedding Album』(1974年)からの引用が挿入されているというが、実際のところは未確認。アコースティックなナンバーになっていて、この独特なこぶし回し?はサム・クックの原曲とはかなり印象が異なる。

“Blue Odyssey” – 0:51

アルバム冒頭のスペース・イントロと同様に、曲としてカウントするなよ!的な逸品。まあこれがあるから次が活きる、みたいなものがあるのかもしれないし、後のアルバムで出てくるような「いい加減にしろ」的ないら立ちはないので、それほど気にしなくても良いのかもしれないが。

“Sweet Maree” – 4:26

で、前の重々しいインストからの流れで、ジェイムズ・コットンによるブルース・ハープをフィーチャーした本曲が始まる。スティーブ・ミラー自身はその声質からしても重々しいブルース奏者とはならないのだが、この曲は6.の”Mercury Blues”共に、このアルバムのブルース的な品格を保っている曲と言えるかもしれない。後半、ウォーキング・ギターとハープの掛け合いが素晴らしい。

“The Window” (S. Miller, Jason Cooper) – 4:18

最後の曲。この曲だけ、何故かバックバンドが違っていて、曲自体の雰囲気もちょっと異なるように感じる。それを感じさせないようにまたまたシンセの音源をあちこちに振りまいているのだろうか。イントロは強烈だ。最初はこんなんでいいのかと思ったが、何度か聴いているうちにそれはそれで良いような気がしてくるのが不思議だ。まあ曲自体がちょっと演歌っぽいというか、こぶしを回して歌い込んでいるアメリカン、という感じで、決して悪くはないのだが、という断わりをあえてしなくてはいけないくらいに、諸手を挙げて賛同できるかというと、それをさせないくらいのオリジナリティというか、独特の手触りのある曲だ。良い表現が思いつかないが・・・あ、2曲目と同じ、ヨアヒム・ヤングがハモンドオルガンを弾いていて、これは品位向上に役立っていると思う。

で、最後にまた悪ノリシンセの風邪の音からの効果音攻撃。まあ・・・いらないよね、と思うけど、まあ、あってもいっか!という、かなり投げやりなシンセに対する評価を勝ち取れるのは、いくつかの録音がかなり高評価な為である。


Fly Like An Eagle

アルバムジャケットはちょっと見ハードロック系ミュージシャンと間違えるかもしれないが、実際の外見はこんな人。

 

と、全体的というか、スティーブ・ミラーの外見やシンセサイザーについてかなり辛辣に書いているような気がするが、それがあってもさほど評価に影響はしない。

それほどに良いクオリティの録音である。

是非、未経験の人は聴いてみてね♪
以下の画像に字幕はないので悪しからず。

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