Beautiful Broken – Heart

ALBUM

アメリカ合衆国出身のロックバンド、ハート(Heart)が2016年に発表したアルバム。

このアルバム、Wikipedia情報によれば全米105位、大して売れてないように思える。

ハートは知っている人は知っている(当り前だが)美人姉妹が売りのハードロックバンドだ。メンバーの年齢的、レコードセールス的にも80年代がこのバンドの全盛期といえるだろう。

ちなみに、公式発表によればアンが1950年生まれ、ナンシーが1954年生まれという事なので、このアルバム発表時には2人とも還暦を過ぎている。円熟期というより、少々の衰退を伴っても仕方ないか?と考えてしまう時期かとも思われるのだが・・・自分が聴いた感想を率直に言えば「とても良い」ということになる。元々ハートに対してさほど思い入れはなく、実際にこれが「初購入」アルバムだ。

CDとして日本国内版は発売されてないと思われるが…昨今、メディアが続々とストリーミングサービスへ移行する世の中で海外の音源がどれくらい「日本語版CD」としてプレスされているのかも良くわからないし、本国アメリカでの最高順位を考えても、まあレビューが少なくても仕方がないのかもしれない。

私はうっかりSportifyより流れて来たアルバムタイトル曲につられ、全編を聞きこのアルバム全編の完成度の高さを実感するに至る。

Sportifyはシャッフルプレイなので、他の曲も挿入されたり、ランダム再生では曲順の意味合いもアーチストの意向が反映されないので、ついCD購入することになりましたが。


Beautiful Broken

アマゾンで購入↑↑

先にも書いたが、自分には元々「ハート」というバンドに思い入れはなかったし、アルバムも持っていなかった。唯一「バラクーダ」がミュージックライフベスト盤に入っていて、それをよく聞いていたに過ぎない程度の評価しかしていなかった。

Little Queen

ただ、「アローン」という曲をTV番組「グリー」で演っていて、その完成度の低さ(失礼)に、オリジナルはもっと良かったのでは?と思ってSportifyで検索していた矢先、本アルバムと遭遇した訳である。

新曲は2曲のみで、残りは以前リリースされたアルバムからの焼き直しというか、再録のようだが、コアなファンでなければたぶん知らない?ような曲が集まっているらしい。いずれにしても私はほぼ曲目に覚えがないので、全曲新曲といわれても全然わからないレベルであるから、「そうか、知られざる過去の名曲を集めた裏ベストだから、良いレコードに聞こえるのかも」みたいに短絡的に考えてしまうかもしれない。

しかし、考えのポイントがどのようなオチだとしても、良いものは良い。このような良いレコードが実際にあまり売れず、多くの人が聴く機会を喪失しているのだとすれば、情報社会にも関わらず実に勿体無い。と、いうことで、レビューを書こうと思い立った訳である。

1 Beautiful Broken 2:26

元は『Fanatic』(12年)のボーナス・トラックとして挿入されていた曲とのことだが、一部歌詞が変わっているとか、途中から入ってくる男性ヴォーカルはメタリカJ.ヘットフィールドらしいとか、うわさはあるが元のレコーディングを聞いていないので比較は出来ない。それはともかく、このバージョンのみ単独で聞いても、中々の出来だと思う。私は元々、個人的にさほどハートを熱心に聞いていた訳ではなくて、楽曲としての印象はバラクーダが一番で、2番が「ALONE」程度の認知度合に過ぎないので、この曲は連想するのはやはり、バラクーダを歌っていた若きアン・ウイルソンである。時代が変わってデスメタルとかグランジとか(自分もあまりよく判らないのだが)おそらく30数年経過した中での新しさを感じなければ円熟もしくは古さを感じさせることもない、実に新鮮なサウンド、と感じるのは私だけ?しかしここにあるのは結構おなじみのハードロック的な仕掛けというか、お決まりのフレーズオンパレードだったりもするので、驚愕のサウンド、とはいえない。リフ部分で連発されるスネアによる「タカタカタッタン」みたいな部分はカッコいいというよりはつい笑みが漏れる部分でもある。また、ジェイムス・ヘットフィールドのヴォーカル、尻上がり加減がセックスピストルズのJ.ロットン若しくは水前寺清子を連想してしまうのは私だけだろうか。まあそんなことは大した問題ではなく、たとえば(すでに数年前の話だが)U2ヴァーティゴを出した時、過去のノスタルジックではなく、単純に活発に興奮する、そんな感じといったら判りやすいのか、混乱するのか、判らないが、そんな感じだ。まあよく言えばキャッチ―、悪く言えば必然性は乏しいという感じであろうか。ボブ・ディランが以前「ジョン・ウエズリー・ハーディング」というアルバムタイトル曲について「この曲とタイトルだけがアルバムの中で浮いてるので、アルバムトップに持ってきてアルバムタイトルにした」みたいな事をインタビューで語っていたのを読んだことがあるが、この曲もまたそんな感じを彷彿とさせる曲である。

2 Two 4:23

`アルバム2曲目は「なーなな、ななーな」といった女性コーラスが繰り返される、ちょっとお間抜けな雰囲気のイントロで始まる、ナンシー・ウィルソンがリードボーカルをとる曲。私のように50代の日本人となると「なはなは」といえば「せんだみつお」であり、それに類似した「なーなな」ではつい、

イントロはお間抜けなのだが、曲の構成は中々凝っていて、序盤はイントロのメロディーに乗せてやや力強く、中盤にさしかかりセンチメンタリズムが発揮され、後半には荘厳な響きまで感じさせる中々の名曲である、といったら誉めすぎか。

曲の提供はニーヨなんだそうな。

このナンシーという人は、確か過去にも「」というヒット曲を出しているのだが、姉のアンのヴォーカルがあまりにもきらびやかな印象が残るため、どうにも印象が薄かった。(と個人的には思っている)

まあ、私自身さほど全盛期?のハートに深い思い入れを持ったことがなく、「バラクーダ」と「ALONE」が好きな曲リストに入る程度の認識なので、あまり偉そうには言えないのだが(今回、このアルバムに行き着くのもSportifyで「ALONE」を検索してた時にたまたまかかってきた事からだった)。

そういう意味ではSportifyに感謝するべきかもしれない。

ナンシー・ウィルソンは姉のアンのような神が降臨してきたかのような高域で歌うことはないが、女性ヴォーカルとしてはかなり聞かせる歌い手であることを再認識することが出来た。

ところで、これが新曲のうちの1曲であるようだ。

というのも、検索しても過去のヴァージョンが出てこないからなのだが…

まあ、百聞は一見にしかず、いや、いくら言葉を繋げても実際に音を聞いてもらうほうが断然理解されると思うので。

3 Sweet Darlin’ 3:53

アルバム「Beautiful Broken」3曲目に収められている天を漂うようなイントロで始まる、美しい曲。

これは1980年に発表されたアルバム『Bebe Le Strange』(全米5位)に収められていた曲です。
シングルとして発表されたのかはよく判らないけど、PVがあるので見てみよう。
うん、かなり雰囲気が違う。(アンの外見もかなり違う)

このアルバム収録バージョンを最初に聞いた時には結構地味なアレンジだと思ったのだが、オリジナルバージョンというか、以前のアレンジと比べると、実は結構凝っていることに気づく。しかし、凝っている事に気づかされないほどに地味な印象を醸し出す事によってこの曲の本来持っている良さが引き出されているような気がする。
正直、以前のバージョンを批判するようになってしまうが、美しい曲である事をアピールしすぎて少々諄いと私は感じてしまうのだ。
このアルバムにおける3曲目という位置づけにもこの曲のポテンシャルが判る。(という言い方をすると大変失礼かもしれないが…)

逆にいえば、当時はラストソングを飾る曲が3曲目になるくらい、本アルバムのポテンシャルが高いともいえるだろう。
sportifyなどストリーミングメディアでシャッフルされちゃうとこの曲順は台無しになってしまうのだが・・・可能であれば、CD等の製作者側が意図した曲順で再生されるパッケージで聞いてみてほしい。

4 I Jump 3:53

これもどうやら新曲らしいが、イントロがらして何やら風神雷神というかドリフの雷様というか、おどろおどろしくコミカルタッチなアレンジである。曲はサビ部分以外は案外爽やかで、このアンバランスさ加減が悪くない。グランジというよりはやっぱりドリフを連想してしまうのだが、私は案外ヘビメタは判っていないのでこの辺はあんまり突っ込んで語れない。

まあ、このアルバムにはなんとなく天に昇るような主題?というか、印象を持たせた曲が数曲あるように思う。「I Jump」もそのうちの1つだが、ある種の滑稽さがいい具合にツボにはまってくれる曲だ。

5 Johnny Moon 4:16

ムード歌謡というか、JAZZっぽいというべきか、気怠い空気を漂わせる曲だ。間奏のテープ逆回しギターソロ?が、アタックがなくフニャフニャ感満載である。これまたMoon(月)ということで天に昇るような主題である。これもYoutubeにあるので原曲を聴いてみよう。アレンジは殆ど同じだが、こっちのほうが圧倒的に良い。この違いはなんだろう?プロデュース力というべきか。こっちもノスタルジックなんだが、オリジナルはどちらかといえば古臭い、今となっては時代を感じるアレンジとなってしまっている事に気づかされる。

6 Heaven 5:24

6曲目は、アナログLP時代であればレコード版をひっくり返してB面最初の曲である。CD時代を超えてストリーミング時代にアルバム折り返し地点が必要なのかは定かではないが、この曲はB面一発目という感じにふさわしい。

「Heaven」は天の上にある、というのはどの宗教的ニュアンスかは知らないが、この曲はその昔、ビートルズのジョージ・ハリソンがハマっていたシタールのような音が響く、インド風である。エアロスミスが「Taste of India (Album Version)」を発表した際「だって僕たちはカレーが大好きなんだ」と言ったとか言わないとか…はこの曲とは全く関係がないが、インドやネパールの方が営んでいる日本にある本場のカレー屋さんではこの手の曲はかからない。インドの歌謡曲はまた独特なのだ。と、全然この曲の褒め言葉になっていないが、ノスタルジックに陥る秀作であることに違いはない。オリジナルはどんななのか?
Stairway to Heaven (Live At The Kennedy Center Honors)
検索しても”~Heaven”はこればっか

7 City’s Burning 3:50

アルバムタイトル曲以外(天に登るのも含め)軽い曲が多かったと思うが、この曲はズッシリ重みが詰まっているというか、メリハリのある曲である。「都市は燃えている」といったところか。決して萌えている訳ではない。しかしこの手の曲であっても「ストリングス」が入っているのは良いのかどうか。「The Who」の「4重人格」映画サントラ盤ではオリジナルの上にストリングスをオーバーダビングされていて、それはそれで良かった。このアルバムもまた、そんな感じにストリングスがバシバシなのだが、まあこれもまだ、オリジナルと比較してみたい。で。これがオリジナル。どうだろう?テンポも速く、かなりイメージは違うが、曲は同じ(当たり前か)ものだ。これはこれで、オリジナルもまんざら、悪くない気がするが。

8 Down On Me 5:13

この曲をリビングで再生していたら娘が「ジャニス・ジョップリンみたいだね」と言った。そうだ、まさしくジャニス・ジョップリンみたいなサウンドだし、塾年のアン・ウイルソンのヴォーカルは適度に枯れていて、それは60代にしては力強過ぎる。凄い。で、これがジャニス・ジョップリンの “Down On Me”。まあ、かなりイメージが違う、というか同名異曲だ。→オリジナルはこっち。

Bebe Le Strange
(1980)に収録。

9 One Word 3:34

おそらくはこのアルバムの主題は「お間抜け」いや、「やすらぎ」とか「ほのぼの」とかそんな調子なんだと思う。2曲目がナンシー・ウィルソンのヴォーカルだった訳だが、後ろから2曲目もナンシーが歌っている。アコースティック・ベースが良い味を出していて、印象としては平日午前中のFM放送のよう(といっても番組名忘れたし、判る人は少ないかもしれないが)これもオリジナル録音は1982年
Private Audition
に収録されている。→こちらもどうぞ。

10 Language Of Love 3:35

最後にアン・ウイルソンのこのアルバムのアンサーであるかのような、締めくくりには相応しい静かな曲。という印象なのだが、オリジナルは、先の”Johnny Moon”同様、1983リリースのアルバム”PASSIONWORKS“に収録。こちらを聴いてみると、確かに歌詞やメロディは同じなのだが・・・なんだろう?同じ曲ではない位に印象が異なる。

と、通して以前のオリジナル録音というか、リリースされた音源と比べてみると、歌詞とメロディが同じでも、以前のものは時代を感じるというか、はっきり言えば全然良さを感じない。

この事実は自分にとって驚きだ。

勿論、以前から思い入れのあるバンドではないから、当時それぞれの収録曲を聴いていたら違った感想を持っていたのかもしれない。とはいえ、歌詞もメロディも同じもので、これほどまでに録音によって好みに影響が出るものか。

 

 

タイトルとURLをコピーしました